ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象

中本 崇志 (なかもと たかし)

語学研修: スロベニア(スロベニア)
企業研修: Cosylab d.d. (スロベニア)

はじめに
  私は2009年4月から1年間Vulcanus in EUrope 2009に参加しました。国際的に活躍できるエンジニアになりたいと考え、そのきっかけになればと思いVulcanus in Europeに応募しました。私の研修先は2004年にEUに加盟したばかりのスロベニアでした。最初の4か月間はスロベニアでスロベニア語の語学研修を受けたのち、残りの8か月間はCosylab社での企業研修をしました。

語学研修について
 
本プログラムでスロベニアに学生を派遣するのははじめてということで、語学研修中の4か月は、ホームステイではなく一人暮らしで、語学学校ではマンツーマンの授業という、他のVulcanus生とは全く異なる形で語学研修期を過ごしました。クラスメイトがいないので、現地での友達を作るきっかけがなく、また、研修先の企業がちょうど国際化していくために公用語を英語に切り替えたところだと聞いていたので、正直スロベニア語を学ぶモチベーションは高くなかったのですが、現地で生活するにあたり知っておかなければ生きていけないので、そのための勉強だと思って語学研修に臨みました。スロベニア語は(ロシア語などと同じ)スラブ系の言語のひとつで格変化があり、語学としてはとてもおもしろいものでした。単数形、複数形の他に双数形があり、そういった珍しい言語を学ぶことができたのは貴重な経験でした。また、スロベニアの周辺国も同じスラブ系の言葉を話すので、近くの国に旅行に行くときにはスロベニア語の知識が役立ったという意味でも、スロベニア語を学ぶ事が出来て良かったです。

スロベニアの首都リュブリャナの中心地にある有名な三本橋

スロベニアではちょっと街からでるとのどかな田園風景が広がっている

企業研修について
 私が企業研修を行ったCosylab社は、高エネルギー加速器、放射光施設、医療用加速器、核融合炉、電波天文台などといった世界先端の科学技術プロジェクトに対して、制御システムの開発、機器製造、システムインテグレーションを行う会社です。私の企業研修時は、創業から7年ほど経っており、会社の規模は30~40人程度の大きさでしたが、特殊な分野を主業務としており、世界中の研究所や企業からはこの分野においてトップ企業であると認められ、創業以来堅実に成長してきた会社です。
 企業研修の最初の1か月は、社内の独自のAcademyと呼ばれる研修制度でメンターの元、システム開発の基本的なことを学びました。この期間は、あらかじめ用意された課題とメンターから研修生に個別に与えられる課題をこなすという形で、実際にPCを使ってシステム開発をして技術を習得していきました。分からないことがあればメンターに聞くのですが、私のメンターは普段の業務が忙しい中、こちらから質問をすると時間を割いて色々と教えてくださり、とても恵まれた環境で過ごすことができました。この研修を終えてしばらくすると、だんだんとチームの一員として働くことになっていきました。仕事の進め方としては、最初に大まかにやるべき業務の内容が伝えられ、詳細はメンターや同僚と相談しながらソフトウェアの開発を進めるという形でした。細かいところは最初から伝えられるわけではないので、自分自身で積極的にコミュニケーションを取りながら詳細を詰めていくということが求められる環境であり、英語でのコミュニケーションが億劫だった私は、はじめのうちは独善的に仕事を進めてしまい、あるところでメンターに怒られることもありましたが、少しずつ同僚との信頼関係が築かれていき、英語でのコミュニケーション力も上達してからは、積極的にこちらから質問や提案をすることができるようになりました。

 私の主な業務は、ITER(国際熱核融合炉)向けのソフトウェア開発でした。ITERは日本も含めた世界各国が参加している国際的な科学技術プロジェクトで、新しいエネルギー源として核融合炉を使うための実験を行うプロジェクトです。そもそも、ITERのような国際的なプロジェクトに関わりたくてCosylab社に応募したので、社内の数ある業務の中からITERの業務に関わることができたのはとても幸運であったと思います。8か月の企業研修の終盤には、フランスにあるITERの現場に出張して、エンジニアリングサポートを提供することができて、とてもよい経験となりました。
 ちなみに、この8か月間の企業研修中にかなり英語力が伸びたと思います。企業研修をはじめたときから所属する部署のミーティングに参加しました。私が部署内で唯一の外国人であったにもかかわらず、ミーティングの言語をスロベニア語ではなく英語で行ってくれた事はとても嬉しかったのですが、英語でさえもミーティングやランチ中の話題についていくことができず悔しい思いをしました。最初のうちは英語力の不足に加えて、私自身が引っ込み思案なところがあった為、こちらからコミュニケーションをとるということがあまりなく、社内で少し孤立した感じになってしまいました。恵まれた環境でありながら、そんな状況になったことがあまりにも悔しかったので、仕事から帰宅後、家での英語の勉強を企業研修の8か月間を通して続けました。おかげさまで、企業研修を終わるころにはミーティングにもついていくことができるようになり、自分からも少しずつ発言できるようになりました。英語力が伸びていくのを実感することができ、とても実のある企業研修になりました。

その後
 Vulcanus in Europeの研修を終え、修士課程の残りの1年を終了後、研修先の企業であったCosylab社の正社員として採用されました。就職して最初に行ったことは、Cosylab社の初の海外支店である日本支店の立ち上げでした。企業研修中の働きが評価されて、主に日本でのビジネスを任されることになりました。立ち上げ当初は、右も左も分からないような状態で営業や入札対応から支店の運営やシステム開発まで、スロベニア本社の支援を受けながら、多くの業務をこなしてきました。それこそ、スロベニアに単身でいくことよりも不安なことが多かったように思います。国際会議に独りで参加して発表したり、海外の客先での仕事をこなせているのは、単身スロベニアで1年間過ごすことができたという過去の経験がある程度自信につながっているからだと思います。
 今では、少しずつではありますが日本での顧客が増え、日本でのビジネスが軌道に乗りつつあるところです。最近では、日本支店として国内で仕事を請け負うことが多くなり、本来のエンジニアとしての仕事に時間を割くことができるようになってきました。スロベニアでの企業研修中に関わっていたプロジェクトにも日本サイドから関わるようになる、業務を行うにあたって、Vulcanus in Europeの企業研修中に得た経験や人脈が活きてくる場面が多くなってきました。また、これまで未経験であった粒子加速器の制御システムの構築(これが本来のCosylab社の本業)にも携わるようになり、これまでの経験を元にして、同僚の助けも得ながら私自身にとって未開拓の分野にチャレンジしています。正社員となった今でも日々学ぶ事が多い毎日です。未だに右も左も分からない状況で仕事を進める場面は多々ありますが、そのような状況でも前に進むことができているのは、大学・大学院で学んだ工学の基礎知識や、Vulcanus in Europeを含めていくつか参加してきたインターンシップなどでの経験、そして企業研修中に築いてきた社内での人脈が大いに役に立っているからです。これからも、Cosylab社の日本支店を切り盛りしつつ、国際的に活躍できるエンジニアとして働けるよう努力を続けていきたいと考えています。

最後に
 私にとってVulcanus in Europeは、ヨーロッパに1年間行ってただ価値観が変わったとか、多様な経験をしたというだけでなく、国際的に活躍するエンジニアとしてのキャリアを一歩踏み出す一番大きなきっかけになりました。Vulcanus in Europeが無ければ今の自分は絶対にあり得ない、というぐらいまでに自分の人生を左右する1年間であったことは間違いありません。
 これからVulcanus in Europeに参加する方や、参加を希望される方には、ぜひこのプログラムを自分のキャリアの第一歩として大いに役立てて欲しいと思います。


(2013年 執筆)

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