ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム 日本人学生対象 | |
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ 体験談 ~マジで大変だったけど、絶対に行ってよかった~ |
遠藤 洋希 ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ 2016年度派遣 |
語学研修:フランス語(アンボワーズ, フランス) 企業研修:Plastic Omnium Auto Inergy Services(フランス) |
現在の所属先:日本アイ・ビー・エム株式会社 |
● 私について |
参加した時期 |
2016年3月22日、ベルギーの首都ブリュッセルのブリュッセル空港及びマールベーク駅において大きな爆発が起きた。私が欧州に渡航したのはそのブリュッセル連続テロ事件のちょうど2週間後の2016年4月5日であった。私がヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム(VinE)に参加したのは、大学3年生を終了した直後。1年間の休学申請をし、学部3年を終えると同時に、単身フランスへと飛び立った。予期せぬテロ事件の影響で、出発の予定は変更になり、例年のようにブリュッセルで一同が集まることなく、それぞれの参加者は直接各国に飛び立った。初めてのフランス、異国の地に降り立った時の空の色、初めてのパリの匂いはいまだに鮮明に覚えている。 |
パリ初日のご飯。語学研修仲間とともに。 |
私の専攻 |
工学部電気工学科、私はいわゆる理系男子であった。3年後期から次第に研究室での研究活動にも触れ始め、本来であれば卒業研究に向けて理系学生のクライマックスに突入する時期である。再生可能エネルギーを活用した電力システムの制御や、パワーエレクトロニクスの分野に興味があった。さらに言うと、パワエレの中でもバッテリー関係に興味があり、電気自動車は私にとっては「動くバッテリー」であった。 そんなわけで、ヴルカヌスプログラムにて研修先として検討する企業は、電力、電気、自動車関係に絞られた。 |
参加したきっかけ |
研究にのめり込みたい。しかし、「本当にこのままの自分で研究生活に突入して良いのだろうか。何か足りない視点があるのではないか。」研究生活を前にして、と言うよりも、研究室を検討する中で、常にそのような疑問が浮かんでいた。熟考するうちに、自分は「世の中に役立つ研究に身を投じること」を強く望んでいると気がついた。 |
しかし、社会を知らない大学3年生の自分がそこにいる。研究生活に臨む前に「ビジネスの視点を磨くこと」が自分にとっては必要なのではないかと思った。そして、ふと思い出したのが、以前にたまたま出会った大人から教えられた「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ(略称VinE)」という海外企業研修プログラムであった。詳細はわからないが、なぜか当時の自分に必要なものを、VinEを通して身につけられると確信していた。それが本プログラムへ私が参加したきっかけである。 |
● 当時の様子 |
語学研修とフランス生活について |
フランス・サントル地区のアンボワーズ。フランボワーズなら知っているが、聞いたこともない街。パリから向かう車窓は、アンボワーズ手前で菜の花畑のイエローに包まれる。 |
人口約1万人、街の中心はアンボワーズ城、川の中洲にあるたったi一軒のバー、可愛らしい商店街にパン屋さん。おとぎ話のような可愛らしいフランスの田舎町は、どこの誰に話しかけても英語が全く通じない。ホテルの案内で英語が通じない経験は初めてだった。「とんでもないところに来てしまった。これから先大丈夫だろうか。」そんな不安はあっという間に払拭された。今までに経験したことのないほど、街の人々が優しく温かい。街を歩いていると、たまたま通りかかった知り合いのおばさんが目的地まで送っていってくれる。老若男女関わらず、友達になったらホームパーティに招いてくれる。銀行の口座を開設するときには地元の高校生が手伝ってくれる。とにかく人々の優しさに包まれた街であった。 |
語学研修の地:アンボワーズの風景 |
そんな街での語学研修生活は、これまでの人生で最も有意義で楽しかった期間と言っても過言ではない。ゼロからのフランス語。最初のテストは苗字と名前を書く場所すら読めず逆に書くレベル。しかし、フランス語研修組の5人と毎日切磋琢磨し、語学学校の先生とのディスカッション、オールフランス語のホームステイを楽しみながら、気付けばフランス語で生活するようになっていた。安くて美味しいワインも、フランス語上達の一助になったとも思う。酔っていると不思議とフランス語がすらすらと出てくるのだ。 |
この期間を存分に楽しむために、週末以外にも休みがあればたくさん旅行した。特に欧州の田舎は、絵に描いたような美しい街並みが広がっていた。この上なく充実した、あっという間の4ヶ月であった。 |
上:語学学校の友人と 下:ホストファミリーと |
● 企業研修について |
企業と仕事内容と求められた役割 |
企業研修先は、大手フランス自動車部品メーカーであるPlastic Omnium社。開発本部にて、ディーゼル車向け排ガス処理システムの尿素水濃度センサの研究・開発に従事した。私のテーマは、尿素水濃度センサの誤検知問題の解明と解決策の提案であった。 |
私にとっては未知のことが多いうえに、勤務日初日から上司が3週間の夏休みに突入という、何ともフランスらしい歓迎だった。専用デスクが用意され、タスクが箇条書きされているA4一枚があるだけ。何をすれば良いのか全くわからないところからのスタートだった。初めのうちは、とにかく他のインターン生や同僚に質問し続け、「習うより慣れろ」の精神のもと体で覚えることに注力した。8月後半に夏休みから復帰した上司は、非常に明るく愉快で素敵なフランス人だった。彼は、その人柄からみんなに愛されるとともに、仕事面でも卓越しており誰もが認めるエキスパートエンジニアという、自分にとっては憧れのビジネスマンであった。日々、チャレンジングな課題に立ち向かいながらも、何とか8ヶ月間で自分に求められていた成果を提供することができたことには、言葉では表しがたい感銘を覚えた。 |
● 本プログラムを通じて |
苦労したもの |
社会人としても、エンジニアとしても、フランス語も未熟。そんな三拍子が揃った私は、企業研修においてなかなか認めてもらえず、依頼しても責任を伴う業務を任せてもらえなかった。自分なりにできる範囲で考え、わからない業務にも必死に向き合う中で、「自由にやっていいぞ」の一言さえあれば、何をどうやって解決できるかというイメージは掴んでいた。しかし、「自分でやってみろ」の一言がかけられることは、遂になかった。私は「あいつ何もしてないな」とでもみんなから思われているのではないかという思い込みに駆られ、精神的な面で非常に苦労した。 |
得たもの |
結局、「思うようにやっていいぞ」のGoサインが出ないまま月日が流れていったが、このままでは終われない。そんな焦燥感と半ば諦めの苦悩に悩まされ続けていたが、遂には変化する決心をした。そうして最終的には、「全ての責任を背負い、上司の指示ではなく主体的に能動的に行動すると決心し」、あらゆる行動を実施した。一言で言うならば、「ダメだと言われない限り、自分の頭で考え実行し続ける決心」をしたのである。それが結果的には評価され、成果が認められるようになった。 |
この「自己責任と主体性の大切さ」を自身の体験の中で学んだことは、その後のあらゆる活動にも大変有用な教訓となった。 |
● プログラムを修了してから現在まで |
VinEを経て、私がプログラム参加時に望んでいた「ビジネスの視点」に触れることができ、その後新たに自分が本気で取り組みたいことが見つかった。それは、「社会に役立つ実学的スキル」を学び、身に着けることである。その環境を求めて、社会人大学院に進学し、システムデザイン・マネジメント学を学び、昼夜を問わず実践的なプロジェクトや研究等の活動に励んだ。現役の社会人と毎日イノベーションのためのグループワークをすることは、非常にハードな日々であったが、この時にも、VinEで身に付けた「多様性の中で自分の価値を発揮するスキル」は存分に活用できた。そして、学術的な立場からの視点だけではなく、社会における要求や価値についても考慮した活動や研究を実施することができた。 |
● ヴルカヌスでの経験をどのように活かしているか/今後活かしたいか |
上記のように、このVinEを通じて学んだ「自分に責任を持って主体的に行動することの大切さ」を今後も活用したいと思っている。私は現在、都内の外資系IT企業にてコンサルタントとして働いている。官公庁向けのコンサルタントやソリューション提案を主な業務とする部署に配属している。日本の官公庁のお客様に対するプロジェクト活動は、これまでのVinEでの企業研修や社会人大学院でのプロジェクト及び実践的な研究活動とは異なる部分も多く特有の制約もあるが、主体的で積極的な姿勢が尊重される現在の環境においては、「自分に責任を持って主体的に行動することの大切さ」というVinEで得た教訓は、日常の業務の中でも非常に求められていることでもある。 |
この学びを存分に活かし、自己成長を続ける中で、今度は自分が誰かを支える立場として、社会に貢献していきたい。そして、自律して主体的に行動するその先に、私が「日本と欧州の架け橋」として貢献できる機会に恵まれることを望み、これからも日々精進していきたい。 |
(2020年 執筆) |
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