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ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象
三場 志織
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2019年度派遣
語学研修:英語 (ダブリン, アイルランド)、ドイツ語(ザルツブルグ, オーストリア)
企業研修:EBG MedAustron GmbH (オーストリア)

はじめに

 2019年4月から2020年3月までの1年間、私はVulcanus in Europe 2019年度派遣生として欧州での語学研修と企業研修を経験しました。海外インターンシップに参加した目的は、「日本人のみならず世界の人に貢献できる人間になる」という自分の目標を達成するための一歩として、学生のうちに海外企業での長期の就業経験を積みたいと考えていたからです。
 企業研修先であるオーストリアのEBG MedAustron社は18か国から来た人々が働く極めてインターナショナルな企業であり、現地語に加えて英語力も磨く必要がありました。そのため、アイルランドで1か月間英語の語学研修を受け、オーストリアで3か月間の語学研修を受けたのちに、EBG MedAustron社の研究開発部門で8か月間のインターンシップを行いました。

語学研修

・ダブリン(アイルランド)での英語語学研修

 最初の1か月間はアイルランドのダブリンに滞在し、現地の語学学校に通いました。語学学校の授業を受ける中で最も学んだのが、スピーキング力は話す内容や知識も伴わないと向上しないということでした。自分の発言力がないことに落ち込んだ時期があったのですが、英語のスピーキング力自体もさることながら、知識のなさによって話したいことが思い浮かばない、という要因もあるのではないかと感じたのです。プログラム初期でこの気付きを得られたことで、その後欧州の歴史や文化的背景、各国間の関係性などを積極的に学ぼうとする姿勢ができたので良い機会でした。クラスにはブラジルやトルコから来た子などがおり、放課後はクラスメートの誕生日会に参加したこともありました。ホストファミリーはとても優しい方々で楽しく生活できていましたが、1か月という短い滞在期間であったため、あまり深く交流できずに終わってしまったのが残念でした。

・ザルツブルク(オーストリア)でのドイツ語研修

 5月からオーストリアに移り、ザルツブルクの語学学校で3か月間ドイツ語を学びました。クラスの人数は基本的に2~3人ほどであったため、一人あたりのアウトプットの機会が多く、質問も気軽にでき、語学習得に適した環境でした。授業は基本的に午前だったので、放課後はザルツブルク中心地の街並みを散策したり、週に1日企画される「Freizeit Program(= Free Time Program)」という催しに参加したりもしていました。
 この期間中はホストマザーと5匹の猫とともに滞在していました。ホストマザーとは必ず夕食のときに今日の出来事や今日語学学校で学んだこと、ニュースに対しての感想などを話していたので、それ自体がとてもスピーキング力の向上に役立ちました。当初はドイツ語が上手く話せなかったこともあり関係構築に時間がかかりましたが、最終的にはとても良い関係を築くことができ、企業研修地に引っ越してからも会いに行きました。
ザルツァッハ川に架かるマカルト橋
ミラベル宮殿

企業研修

・EBG MedAustron社でのインターンシップ

 8月からはオーストリアのWiener Neustadtという町にあるEBG MedAustron GmbHという会社の研究開発部門で研修生として働きました。この会社は癌の放射線治療を行う医療機関であり、その放射線治療装置の開発を研究開発部門が担っています。陽子や炭素原子核をシンクロトロンという装置で加速させることで高エネルギーの陽子線や炭素線を発生し、そのビームを患者のいる部屋まで運搬して腫瘍に照射することで癌細胞を死滅させることができます。私が所属していたAccelerator Beam Physicsチームは当時「ビームを決められた位置・方向に正しく輸送する」ための研究をしていました。偏向電磁石や四重極電磁石などの入力電圧を変えることでビームのサイズや進行方向を制御し、適切な出力を得るために必要な入力を探っていく、というような作業を行っていました。
  このチームの中で私が担当した主要なプロジェクトは、実験に使うアプリケーションの開発です。電磁石の入力電圧を変えるために、あるアプリケーションを用いて機械への入力を行っていたのですが、その既存のアプリケーションを用いた実験では必ず手動の作業があるため、効率性向上のためにその部分を自動化させた新しいアプリケーションの開発を行いました。
 私の専門は組織工学という生物学に近い分野であり、物理学の知識が全くないうえにプログラミング経験も乏しいという状態だったため、インターンシップ開始当初はかなり苦労しました。それでもなんとか成し遂げられたのは、上司をはじめとした周囲の人々がとても協力的だったおかげです。彼らのおかげで期間内にテストマシンを用いた試験を成功させることができたため、チーム内で自分からミーティングを開き、開発したプログラムの説明や更なる機能追加の案の募集などを行うことができました。このように、まさに”開発”というようなプロジェクトを1学生に任せてもらえたのは非常に貴重な経験であったと感じています。
 また、自分の専門を活かし、放射線生物学の研究チームに掛け合っていくつかの実験に参加させてもらいました。大学での研究で獲得した手技を活かし、実験の助手として癌細胞の培養やその細胞への放射線照射、アッセイなどに携わったのですが、その経験を通して放射線生物学に関する知識を得ることができました。自らの専門を活かした業務も経験させてくれたEBG MedAustron社の柔軟さ、寛容さには非常に感謝しています。
 職場の雰囲気としては、非常にアットホームでした。ミーティングにお菓子を持ってきてみんなで食べながら議論したり、Team Buildingを頻繁に行ったり(下の写真を参照)と、チームの仲がとても良かったです。朝と昼食後に必ずコーヒーブレイクをとり、業務に関する話から世間話まで色々と話していましたが、そのいかにも外国の職場らしい雰囲気を感じることができたのも良い経験でした。ただ、完全に馴染みきれなかったという思いもあり、ここは自分の中で「もっと頑張れたな」と感じている部分です。
Accelerator Beam Physicsチームのメンバー
(中央上にいるくまモンのTシャツを着た方が直属の上司です。彼はかつてVulcanus in Japan の派遣生だったこともあり、業務関連のみならず私生活全般に関してもいつも気にかけてくださり、とても優しい上司でした。)

・Wiener Neustadtでの生活

 企業研修が始まってからは会社のすぐ目の前にある学生寮に住んでいました。近くの大学の新学期が始まった頃にイラン人のフラットメイトがやってきたのですが、この子の存在がプログラムの後半では最も大きかったです。一緒にワインを飲んだり、互いの母国の料理を振舞いながら、共用スペースで長々と話すこともあり、彼女とフラットメイトになれたことは非常に幸運でした。
 プログラム後半になってからは同期が次々とウィーンに遊びに来てくれたので、ほぼ毎週末ウィーンに出かけていました。自分と同様の経験をしている人と話すと、共通する悩みを持っていたり、逆に違う状況にいて刺激をもらえたりして、同期の存在は偉大だと感じました。
ウィーン市庁舎前のクリスマスマーケット

Vulcanus in Europe Programme を通して得たこと・今後について

 このプログラムを通して得られたものは主に「自信」と「欧州の人々や職場環境に関する理解」です。日本人が一切いない会社で、更に自分の専門とは全く違う知識を求められる職場で働ききれたことで、どんな環境に置かれても自分ならやっていけるはずだ、という自信を持てるようになりました。また、現地の職場で8か月間勤務したことで、欧州の生の職場環境を感じ、欧州の人たちの「働くこと」に対する考え方を深く理解することができました。私が最も印象的だったのは、彼らはみな「楽しく生きる」ことにとても貪欲であるということです。自分はその点に関しては日本人性が強く、幸せや楽しさにあまり重きを置く人間ではなかったのですが、この経験を通して違った考え方も持てるようになりました。
 このプログラムが終わってからは、元々在籍していた大学院に復学し、学部時代と同じく組織工学の研究をしています。現地の大学や派遣先企業と共同研究をできたらいいなと思い行動していましたが、結局実現はできなかったため、この経験を直接的に現地での就業や進学に結び付けられたわけではありません。しかし、将来海外に挑戦したいポストがあるときに、躊躇いなくその道を決断できる人間になれたとは思っているので、この経験を適切なタイミングで必ず活かしたいと考えています。

最後に

 こんなにチャレンジングなことができる海外派遣プログラムは他にないと断言できます。少しでも興味がある方は、ぜひ応募してみてください!
 また、派遣が決まった方は、ぜひ自分にしかできない経験をいっぱいしてきてください。上手くいかないことだらけだからこそ、沢山得られるものがあるはずです。
 最後に、ホームステイ中に温かく私を迎え入れてくれたホストファミリー、未熟な私に大きな経験をさせてくださったEBG MedAustron社の方々、そして何より、このような貴重な機会を与えてくださり、また期間中には手厚くサポートしてくださった日欧産業協力センターの方々に、深く感謝いたします。この1年間本当にありがとうございました。
(2020年 執筆)
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