ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム 日本人学生対象 | |
奥泉 陶和 |
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2019年度派遣 |
語学研修:フランス語 (アンボワーズ, フランス) 企業研修:Resinoplast S.A. (フランス) |
参加理由 |
私は大学入学時から自分自身に国際的な経験が全くないことに、どことなくコンプレックスを感じていました。思い切った海外留学も考えましたが、特に決断する事もなく時間が過ぎて行きました。そのような状況で偶然見つけたこのプログラムの内容は金銭的に心配することなく、また刺激的で面白い国際的な経験ができるのではないか、私を成長させる機会になるのではないか、と感じ心躍らされました。それらの思いが私に申し込みを決意させた理由です。 |
プログラム |
大学では材料化学を専攻しているので材料メーカーを中心に応募したところ、フランスの企業派遣に決定しました。フランスの法律の都合上、8ヶ月の企業研修は認められず、6ヶ月の語学研修と6ヶ月の企業研修というプログラムに変更となりました。語学研修はフランス北西部に位置するノルマンディー地方のRouenで行い、企業研修はフランス北東部のシャンパーニュ地方Reimsにある塩化ビニルのコンパウンドメーカーであるResinoplastで行いました。 |
語学研修 |
まずこの語学研修を通じて様々な人に出会い、多くの経験をしましたが、ふと記憶に残っている出来事があります。それは私が語学研修の序盤、フランス語の勉強をしている時のある間違いに対して受けた指摘のことです。私が何かバカンスについて作文をしていた時の事で、「la vacance」という単語を文中に書いた時、先生から「les vacancesよ。休暇は常に複数よ。」と言われました。ただの何気ない文法的な指摘です。しかし私はそこから、「バカンスが短期間(単数)であってはならない。そんなものフランスではバカンスとは言わない。」というような、週末や夏の長期休暇時には街全体が止まり、自分自身の時間に切り替える欧州のスタイルを垣間見た気がしました。そして、早速感じたその異文化に1年間のフランス生活への期待が膨らんだことを覚えています。 |
英語でさえ苦手な私にとって、これまで全く触れたことのないフランス語は当初全くと言って良いほど理解できませんでした。特に最初の1ヶ月間は、自分がどのように過ごしたのかさえ思い出せないくらい必死だった事を覚えています。ただただ焦る日々でしたが、必死に食らいついて行くうちになんとなく理解できるようになり、話せる言葉も次第に増えていきました。これはホームステイ先のホストマザーのおかげだと実感しています。 |
私は6ヶ月間、ホストマザーと小学校に通う息子さんとの家庭に滞在しました。私の他にもう一人コロンビア人の学生がおり、合計4名の中でホームステイを体験させて頂きました。異国で暮らしたことのない私でもストレスなく一緒に暮らせるような気遣いに溢れた家族で、わからないことがあればいつもホストマザーに助けてもらっていました。コロンビア人の女子学生はすでにフランス語も英語も流暢であったので、彼女にも本当に助けてもらい心から感謝しています。週末はよくホストマザーの友人や家族が家に来て、一緒に夕食を食べるのがこのホストファミリーの週末の過ごし方でした。この週末の会食では、豪勢な食事も名産のシードルも、ホストマザー手作りのデザートも楽しみでしたが、様々なフランス人の方と出会えたことが本当の楽しみでした。 |
このホームステイで私が少し後悔し、また申し訳なく思っていることが、フランス語の勉強をほとんどせずに来てしまったことです。はじめてホストマザーと出会ったときは名前が言えるだけで、当然会話などできる状態にありませんでした。赤ん坊に教えるようにホストマザーに教わることからのスタートでしたので、0から1にする作業は事前に自分ですべきであったと今は後悔し反省しています。 |
語学学校の様子 |
週末を過ごしたセーヌ川沿いのコテージ |
近郊の町 |
企業研修 |
後半の6ヶ月はフランスの塩化ビニルメーカーであるResinoplast社の研究開発グループに入り、企業研修を行いました。塩化ビニルは車の内外装や建築材料、医療機器、パッケージなどに広く使用されている素材で、私は車のダッシュボードに使われる塩化ビニルシートのセンサー化に向けた開発、というプロジェクトを頂きました。日常的には試作品を作るためのプロセスを検討し、実験と測定をするということが主なタスクで、最終的に、6ヶ月間でプロトタイプを完成させ発表することが研修目標でした。プロジェクトを進めていく過程で他の会社との協力が必要になる事もあり、時には隣国ベルギーまでプロジェクトの打合せに同行し、他社のエンジニアの方々と話す機会もありました。また一度日本企業の方が来られた際には、会社の案内から会議まで参加させて頂いたこともありました。 |
企業研修の6ヶ月間は、困難や自身の非力さを感じることばかりでした、特に語学の面。仕事を進めていくうえで、準備期間が6ヶ月間と短期間であったこともあり、自分自身が懸命に取り組むのは当然でしたが、周りの援助を積極的に求めていかないと間に合わないと感じ、広くコミュニケーションを取るように意識しました。その中でテクニシャンはフランス語しか話せない方が多く、困ったときには英語という訳にもいかず、時間を作ってもらって頻繁に話し合うようにしました。しかし、私の語学力の低さから私の求めていることとの齟齬が起きてしまうことが多々ありました。私のために割いてもらった時間を私のせいで無駄にさせてしまい、悔しさと申し訳なさが大きかったです。それ以降は私の語学力不足が原因で遅れを出さないために、できるだけデータを用いた話し合いが出来るように心掛けました。 |
一方で、人と環境には大変恵まれました。研究所の中の休憩室には小さなコーヒーメーカーが一つだけあり、私を含めた全員がとにかくコーヒーブレイクが大好きでしたので、ことあるごとに休憩室に集まっていました。その場では職種の垣根も超え、今仕事で困っていることから週末の予定までおしゃべりをしていました。企業研修を始めた当初は右も左もわからず、なかなか輪に入れずにいましたが、いざ勇気を出して飛び込んでみるといくつも発見が生まれました。近寄り難かったベテランの人は実はとてもユニークな優しい人で、その後何度も助言をいただけるようになりました。またITチームのある人は日本のカルチャーが大好きで、フランスに来てまで漫画の話しができるとは思いませんでした。その様な状況の中で上司とは常に行動を共にしていました。二人でのコーヒーブレイクや昼食の時間、さらに仕事終わりには毎日家まで車で送ってもらっていたので、彼の家族や人生の話、お互いの国の話など真剣なことからくだけた話まで数えきれない位多くの会話をしました。たまの仕事終わりや週末には一緒にフットサルをしました。「ここでの生活すべてがお前のインターンシップだ」と常に気を配ってくれ、私を誘ってくれたのはとてもありがたかったです。突然車が故障し、上司の車の修理にまでついて行ったことも今では良い思い出です。この環境を与えてもらえたことに心から感謝をしています。最終的には、無事目標のプロトタイプも完成し、社内外に向けて発表することもできました。 |
まとめ |
まず、参加して良かった、と述べたいです。 |
得られたことは幾つもあると思いますが、一つは非力な私でも全く違う環境に飛び込んで生きていける、という証明になったことです。当然多くの人に助けられましたが、全く未知の領域に飛び込んだこの経験は、今の私の自信につながっています。私は学部を卒業し大学院に入った直後に本プログラムに参加したので経験は少ないと感じていましたが、きっと参加前よりは視野は広がっていますし、広がったどんな可能性の中に進んでも、なんとかなるという自負が持てました。これだけでも十分参加した価値があったと思います。 |
また同期の12人の参加者に出会えたことが財産であったと思います。これまでに出会ったことのないような、優秀かつ柔軟で情熱と野心にあふれた同年代の存在は、嫉妬心が湧くことすらないほどの差を感じました。しかしフランスでの一年間、彼らの存在は常に私を奮起させました。何か迷いが生じた際に、彼ならこうするのかな、彼ならまだあきらめないよな、という心の中に沸く存在は、支えとなり重要なものであったと思います。実はプログラムが終わった今でも、少しでも彼らに追いつきたいと目標にしています。 |
私の年度はすでに何かしらの海外経験がある参加者がほとんどでしたが、中間報告会でセンターの方に、私のようなまだ経験の全くない方にも是非参加してほしいというプログラムであると伺いました。十人十色の理由と目的を持った参加者がいることがこのプログラムの一つの魅力だと思います。私のような色々がゼロからの参加者も達成感に満ち溢れた一年間を送れましたので、似たような境遇の方もぜひ挑戦すべきだと実感しています。 |
上/下: Reimsにて |
最後に |
私の1年間のプログラムは、様々な方に助けていただき修了することができました。参加に快く賛同していただいた研究室の先生方、私を受け入れていただいた企業の皆様、常に日本から応援してくれた知人、精神的な支えの家族、そして、この機会を与えていただいた日欧産業協力センターの方々、その他数多くの方にお世話になりました。本当にありがとうございました。 |
(2020年 執筆) |
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